臨床検査の『本の虫』にようこそ。こんにちは、音奈です!
子育て世代の悩みのひとつといえば、児の予防接種ですね。かかりつけ医も見つかりましたか?不安があれば、思い切って新しい小児科を受診するのもありですよ。
次は4種混合だけど、4種ってなによ?
ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオやね。
4本打つとかやなんですけど…
4種の病原菌に対してなんと1本のワクチンで抗原感作しちゃうのがDPT-IPVワクチンです。
そこで今回は、DPT-IPVワクチンを受ける前に医療知識を確認したい検査技師さんに、ジフテリアの基本情報をまとめてお伝えします。
この記事は次のような人におススメ!
・ジフテリアについて詳しく知りたい人
・細菌の性状と検査での同定方法を復習したい人
ジフテリアは赤ちゃんにとって毒性の強い感染症ですので、定期予防接種のひとつですよね。
今回の記事では、検査技師である筆者がジフテリアに関する基礎知識と検査業務をまるっと解説します。
前半はジフテリアの病原性について、後半は細菌の性状等をまとめていますので、微生物検査に携わらない方は前半だけでも読んでみてください。
それではどうぞ!
ジフテリアって怖い病気?
ジフテリアって感染しても不顕性感染で終わるイメージだけど…
ジフテリアはジフテリア菌の飛沫感染にて発症します。
主な感染部位はのどですが、鼻腔内でも感染します。ヒトにしか感染しないですね。
国内では患者発生数が年間ゼロという状況が数年続いています(2020年調べ)が、アジア地域で時期流行的発生が見られるので、今後も日本に入ってくる可能性はあります。
ただし発症はわずか10%で不顕性感染が90%です。
症状は高熱、のどの痛み、犬吠様のせき、嘔吐などが一般的です。
ふーん。よくわかんないけど、けっこう辛そうね。
毒素が産生されてしまうと心筋障害・神経麻痺が起こりえますし、気道の狭い乳幼児は偽膜によって窒息する可能性もあるので、やっぱり怖い細菌なんですね。
臨床検査からみたジフテリア菌
ジフテリア菌ってどんな細菌?
ジフテリア菌は感染症法で2類に含まれる病原体で、コリネバクテリウム属に属しています。恐ろしい感染症のひとつとして知られていましたが、北里柴三郎が確立した血清療法を用いれば治療できることが明らかとなり、治療法が確立された病のひとつですね。
あ~知ってる。千円札の人ね。
北里柴三郎はロベルト・コッホに師事し病原微生物学を研究していた人で、留学中に破傷風菌の純培養に成功し、破傷風の毒素に対する抗体を発見したことから、血清療法を確立した人です。
研究をかじったことのある方はおそらくピンとくるのでしょうが、この発見は当時の医学界でかなり大きな功績でした。
そして、ちょうどその頃にはじまったのがノーベル賞。北里は有力候補のひとりでしたが、血清療法を同時期に研究していたベーリングのみがノーベル賞を受賞しました。これが現代日本の研究室で見いだされた功績でしたら、彼もノーベル賞を受賞していたかもしれません。
非常に惜しい人でしたが、120年以上経過した現在ー2024年の新紙幣として選定されることになり、再び注目されました。
それはおいといて…
ジフテリアのまとめです!
ジフテリア菌とは?
■コリネバクテリウム属ジフテリア菌
■ 感染症法2類に含まれる病原体
■ ベーリング北里らがジフテリア抗毒素を創製し、血清療法が確立
■ 治療には化学療法薬も併用する
続いてこの微生物のことを詳しくみていきましょう。
ジフテリア菌の性状
それじゃあジフテリア菌の特徴をまとめていくで。
感染者のどこから採取できるの?
好気性?嫌気性?
感染すると咽頭に偽膜を形成し、そこに生息している。
好気性もしくは通性嫌気性菌だよ。
検体は咽頭を拭って採取します。鼻腔で感染成立ということもあるのでのどのほかに鼻も対象です。
見た目はどんなの?
グラム染色(+)
松葉状、柵状、VとかWとかYみたいな形態の桿菌。
VVVVWWWW←こんなの
ナイセル染色で菌体の異染小体が染まる。
ナイセル染色はジフテリア菌を同定したい時にグラム染色と併用するとよい染色ですよね。染色標本の一例は検査・診断Matrix で確認できますので、興味のある方は調べてみてください。
菌の生体防御能はどうかな?
耐性のことか?
- 莢膜ナシ
- 芽胞ナシ
- 鞭毛ナシ
ナシ3つでおぼえやすいですね。
ジフテリア菌の同定方法
続いて分離した菌の同定方法を説明します。
細菌っていえば寒天培地だよね!
普通寒天培地には生えにくいで
血清(血球も可)を加えて調整するといいねん。
まずは偽膜や分泌物などから採取した検体で塗抹標本を作成し
グラム染色、ナイセル染色およびメチレンブルー染色で、疑わしい菌の存在をスクリーニングします。
疑わしい場合はすぐに菌の分離にとりかかります。培地はレフレル培地もしくは専用の血液培地を選択します。
レフレル培地の方が生えやすいで。10時間くらいでコロニー形成を確認できるし。
それらしい菌体を発見したら、いよいよ同定になります。最もメジャーなのが毒素産生能を試験するElek法です。
そのほか臨床で効果的な検査方法となると血清学的検査法のELISA法、間接赤血球凝集反応法あたりですが、ジフテリアのELISAになると一部の地方衛生研究所でしか取り扱われていません。そもそも検体数も少ないので局所に集める方が効率的です。
続いて細菌の栄養源について確認しましょう。
菌の栄養源ってなんですか?
エネルギー源はグルコースとマルトース。
異染小体みたいにまるっとしてるって覚えたで!ラクトースとかスクロースとかは使わないねんね~。
糖を分解してもガスは発生しないですが
カタラーゼとインドールを産生して硝酸塩を還元します。
その他とまとめ
以上でジフテリアの説明はひととおり終わりました。他にはというと…
あと2点だけ!
偽膜ってなぁに?
ジフテリアはヒトに感染した時、潜伏している部位の細胞を壊死させます。そこにフィブリンや白血球が集まってきて膜状に出現するんですが、その様子を偽膜って呼んでいますね。
じゃあジフテリア毒素は?
ジフテリア毒素は易熱性のためin vitroの世界だと分解されやすいですが、in vivoでは血中を移動して血圧を低下したり、あちこちの筋肉を障害して麻痺を起こしたりする作用を持ちます。
どうやってできるかというと、βファージがジフテリアに対してファージ転換(遺伝子を入れ込む。形質転換のようなもの)を引き起こし、結果としてジフテリア毒素が産生されます。
ジフテリア毒素が細胞にとりこまれると壊死が発生するので、細菌をほうっておくとひどくなりますね。
これにて終了~!
以上がジフテリアに関する微生物学知識のまとめとなります。
発症すると患者はたいへん苦しい思いをするので、臨床検査技師に求められるのは早い段階で菌同定にまで結びつけることですね。
なんだかややこしくておぼえることばっかりだった…
こんな細菌の同定なんてもちろんやりたくないですね。ワクチンで早く撲滅したいです。
DPT-IPVワクチンに関する情報は今後まとめていきますので、気になる方はクリックしてみてください。
※鋭意製作中!
【参考資料】
○予防接種と子どもの健康(2021年度版)
発行元 公益財団法人 予防接種リサーチセンター
○シンプル微生物学(改定4版より)