ごきげんよう。
音奈に臨床検査を教えている『本の虫』です。
「クロスマッチも慣れてきたけど、一人で輸血担当は怖いな」というお悩みはないでしょうか。
というわけで、今回は「輸血製剤完全ガイド」を作成しました。
この記事は以下のような人におススメ!
・血液製剤の種類は?
・血液製剤を注文するときのルールを教えて…
・血液製剤を保存・使いたい。どうすればいい?
輸血業務での検査技師の仕事は大きく分けて2つ。
「クロスマッチや不規則抗体などの検査業務」と「血液製剤の注文・保管」です。
検査技師はOJT(On the Job Training)で業務をおぼえるので、「血液製剤の扱い方もよくわからないけどマニュアルどおりに実施している人」が多いと個人的には考えています。
血液製剤のことを知っておくと損はないので、この記事では「輸血製剤の知識~使用方法」などを紹介しますね!
それではどうぞ!
輸血製剤とは?
輸血製剤は健康な人がボランティアで提供した血液から調整されたもので、各地の赤十字社の血液センターにて血液成分ごとに分離されて製造されています。
輸血に必要な血液を確保するために1日あたり約14,000人の人が献血に協力してるんだよ。
赤十字社が作る輸血製剤には次のようなものがあります。
- (照射)赤血球液-LR/RBC-LR-1.2
- 新鮮凍結血漿-LR/FFP-LR-120.240.480
- (照射)洗浄赤血球-LR/WRC-LR-1.2
- (照射)合成血液-LR/BET-LR-1.2
- (照射)解凍赤血球液LR/FTRC-LR-1.2
- 照射濃厚血小板-LR/lr-PC-LR-1.2.5.10.15.20
- 照射濃厚血小板-HLA-LR/lr-PC-HLA-LR-10.15.20
- 照射洗浄血小板-LR/lr-WPC-LR
- 照射洗浄血小板-HLA-LR/lr-WPC-HLA-LR
よく遭遇するのは (照射)赤血球液-LR/RBC-LR-2 ですよね。
私もこの製剤でほぼ毎日クロスマッチしてました。
だから他の製剤のオーダーがあると意表をつかれてドギマギします。
他の製剤はいったい何なのか、ひとつずつ見ていきましょう。
どんな種類があるか
輸血用血液製剤は大きくわけて「赤血球製剤」、「血漿製剤」、「血小板製剤」、「全血製剤」の4種類があります。
30年以上前の日本では「全血製剤」が主流でしたが、心臓への負担の観点から成分輸血用の製剤が供給されるようになり、今では「赤血球製剤」「血漿製剤」「血小板製剤」の3つが主に医療機関へ供給されています。
今はどんな時に注文される?
平成29年3月に厚生労働省医薬・生活衛生局が発表した「血液製剤の使用指針」によると、血液製剤の使用は検査値が基準値未満に低下した際に行われるトリガー値輸血が採択されています。
赤血球製剤や血小板製剤はRBCやPltが減少したとき、新鮮凍結血漿は血漿因子(凝固因子が主)の補充目的で採用されます。
そういえば医師から輸血オーダーを依頼される直前に、RBCがかなり少ないシャバシャバ血液に遭遇することある!
そういうデータからオーダーを予測しておくのは技師の基本なのだな
それでは各製剤が注文されるケースをみてみましょう!
【赤血球液】
赤血球液がオーダーされるケースとしては以下の4例が多いです。
・慢性貧血
・急性出血
・術中輸血
・敗血症患者
<トリガー値の一例>
慢性貧血→トリガー値は6-8g/dL程度
急性出血→Hb値6g/dL以下の外傷性出血、消化管出血、産科的出血
敗血症患者→トリガー値は7g/dL
わたしがHb値データを見てクロスマッチの予想をたてるなら…
【おぼえておきたい!輸血オーダーがくるHb値】
高確率:Hb 6.0g/dL以下
中程度:Hb 6.0~10.0g/dL
低確率:Hb 10.0g/dL以上
【血小板濃厚液】
血小板濃厚液が必要なケースは
・腫瘍系
・外傷・術中
・その他
<トリガー値の一例>
造血器腫瘍や再生不良性貧血など → トリガーの目安は0.5-1万/μL
外傷など → トリガーは10万/μL
侵襲行為 → トリガーは5万/μL
血小板輸血不応状態(HLA適合血小板濃厚液)
【新鮮凍結血漿】
凝固因子を補充するケースとしては
・肝障害
・DICなど
・血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
新鮮凍結血漿に関するトリガー値は、厳密には決まっていませんが判断の根拠となる検査は
PT (INR)2.0以上または30%以下
APTT 基準上限の2倍以上、または25%以下
フィブリノゲン 150mg/dL以下
【参考:赤血球液の投与によって改善されるHb値の求め方】
Hb値を○○だけあげたいんだけど、輸血パックを何単位注文したらいいかな?
Question!何単位発注すればいいか計算できますか?
こういう質問って医師から受けることもありますよね!
ラクに算出できる計算式をお教えしますので、覚えておくと便利ですよ!
とりあえず必要な情報は患者の体重です。
必要な単位数の計算方法
1パック(2単位)で上昇するHb値(A)は
A=80÷患者体重
達成させたい予測Hb値を(B)とすると
必要な単位数=B÷A×2
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【計算式(詳細)】
予測上昇 Hb 値(g/dL)
=投与 Hb 量(g)/循環血液量(dL)
※2単位(400mL 全血採血由来の赤血球液 1 バッグ)あたりの含有 Hb 量は約 14g/dL×4dL=約 56g
※循環血液量(dL)
=70mL/kg(体重 1kg あたりの循環血液量)×体重(kg)/ 100
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輸血製剤の注文例を紹介
輸血製剤の発注依頼は各ブロックの血液センターと医療機関が事前に契約の締結をしていることが前提になります。
その際に、輸血用血液製剤発注の手引きが各病院に配布されるので、詳しくはそちらを確認してみてください。
ここでは北海道ブロックでの血液製剤発注を例に解説していきます。
発注方法:Fax、電話、インターネットの3択
発注方法はFAX、電話、ネットの3択になっています。電話は誤認につながるので、FAXもしくはネット発注が推奨されています。
その後、システムもしくはFAXにて受注の確認がされます。
どんな時間帯に届けてくれるの
日赤の専用車が各医療機関へ血液製剤を供給していくので、できるだけ定期配送を利用するようにお願いされます。
以下は室蘭出張所の在庫製剤の〆時間になります。
定期便名 | 発注締め | 納品時間 |
定期1便 | 10時15分まで | 10時30分~12時 |
定期2便 | 13時15分まで | 13時30分~15時 |
定期3便 | 16時15分まで | 16時30分~18時 |
※予約製剤は発注時間がそれぞれ異なります
緊急搬送
室蘭出張所の場合は術中出血、交通外傷、産後出血などに限って緊急配送をしていますが、その場合は緊急走行(つまり救急車のようなサイレンプラス赤色警告灯つきの走行)になるので特段の理由がなければ引き受けてもらえません。
全国で問題になっているよね。緊急搬送ばかりだと通常業務が遅延することもあるから、要請は本当に必要な時だけするようにしよっと!
受け取る時に気をつけることは
血液製剤は製造物責任法(PL法)が適用されるため、医療機関が受領したあとの血液製剤は返品ができません。
ですから受領時は発注内容との照合を確実に実施しましょう。
ただし、以下のような場合は、赤十字社の方で現品確認および調査がなされ、返品可能になるケースもあります。該当の場合は、赤十字社に電話で確認をとってみてください。
・直接抗グロブリン試験陽性
・血液の漏れ、つまり等が見られた製剤
・凝集塊や色調異常等が認められた製剤
一部製剤をのぞいて、受領前であれば発注中止は可能です。発注後に不要になった場合はキャンセルしましょう。
輸血製剤の使用期限
ここではおぼえておくと損はない主要な在庫製剤の使用期限をお伝えします。
製剤 | 採血後の 使用可能 日数 | 保管温度 |
赤血球製剤 | 21日 | 2-6℃ |
血漿製剤(凍結) | 1年 | ー20℃ |
血小板製剤 | 4日 | 20~24℃ 振とう |
全血製剤 | 21日 | 2-6℃ |
それ以外の詳細は「日本赤十字社」HPの医薬品情報 で検索してみるか
「輸血用血液製剤の取り扱いについて – 日本赤十字社」で検索してみてください。PDFがありますよ。
クロスマッチについて
検査技師でしたらクロスマッチをうまくやって、検査結果を正しく理解したいですよね。一人前になるためには欠かせません。
クロスマッチについては以下の記事で詳細を解説しますので、よければ参考にしてみてください。
※順次作成中
輸血製剤の取り扱い注意点
【赤血球製剤】
適合試験
1患者血液型検査(ABO血液型オモテ・ウラ試験とRhD抗原)と不規則抗体スクリーニングを実施。
このとき間接抗グロブリン試験を含むこと。
2交差適合試験
ABO血液型の不適合が検出できること
37℃反応性不規則抗体を検出する(例:間接抗グロブリン試験)
両方を実施する。
事前に患者の血液型検査が適正に行われていれば副試験は省略可能。
タイプ&スクリーニング法
輸血可能性の低い受血者が予めABO血液型、RhD抗原、不規則抗体の有無を検査しておき、輸血リスクが低いケースと想定される場合は血液製剤を事前準備しない方法。
緊急輸血の際は血液製剤のオモテ検査によりABO同型血であることを確認して輸血するか、生食法による主試験で適合の血液を輸血する。
その他 注意点
・外観異常は赤十字センターに連絡
・カルシウムイオンが入った輸液剤などを血液と混合すると、凝固が起こりフィブリンが析出する。
・ブドウ糖溶液と血液を混合すると、赤血球が凝集したり赤血球の膨化による溶血がおこる。
・保存に伴い上清中のK濃度が放射線照射赤血球製剤においては増加する。通常患者では問題はないが、下記患者のケースは注意が必要
K排泄がうまくない胎児、低出生体重児、新生児、腎障害患者や、高K血症の患者および急速大量輸血の必要性のある患者
【血漿製剤】Fresh Frozen Plasma
適合試験
1.患者の血液型検査(ABO血液型)を実施し、原則として同型製剤を使用
2.交差適合試験は省略可能。
血漿製剤中には赤血球がほぼ含まれず。血液型検査と不規則スクリーニングも日赤にて実施済み。
融解方法
製剤を箱から丁寧に取り出し、破損がないことを確認。
ビニール袋に入れたまま恒温槽もしくはFFP融解装置で30~37℃の温湯にて融解。
装置がない場合は、温度計で上記温度に設定した温湯中で攪拌しながら融解する。
融解時の注意点
※パックの輸液用器具との接続部は汚染しないように。
※融解温度が高いと凝固因子活性は急激に低下する。温度と因子によっては10分で半分くらいの活性にまで低下するものもある。
その他 注意点
・外観異常は赤十字センターに連絡
・融解後に使用中止とした場合は2-6℃保存で24時間以内であれば使用可能
・再凍結は不可
・カルシウムイオンを含む輸液剤と混注すると凝集物が析出する。
【血小板製剤】platelet concentrate
適合試験
1.患者の血液型検査(ABO血液型)を実施、原則として同型製剤を使用。
RhD陰性の場合、特に妊娠可能な女性は、RhD陰性の製剤を使用するのが望ましく、推奨されている。
2.交差適合試験は省略可能。
血小板製剤中には赤血球がほぼ含まれず。血液型検査と不規則スクリーニングも日赤にて実施済み。
注意点
・細菌により外観異常が発生する。凝集、凝固の有無、色調の変化、スワーリングの有無を確認すること。
スワーリングとは
蛍光灯等にパックをかざしながらゆっくりと攪拌したときに、血小板形態が良好に保たれているパックで渦巻き状のパターンがみられる現象のこと。
・カルシウムイオンを含む輸液剤と混注すると、血漿の凝固が起こる。
振とう保存する理由と目的は
理由
静置保存すると劣化する。
血小板の代謝によって乳酸が生じ、pHが酸性に低下する。
pH低下は血小板に傷害をおこし、輸血効果が低下する。
目的
二酸化炭素の放出
→パックはガス透過性がある。
生成された乳酸が重炭酸と化学平衡を起こし、二酸化炭素を生じさせる。
それを放出させると適切なpHを保つことができる。
【振とう条件】
ストローク距離:about 5cm
振とう回数:約60回/分
法規ー血液製剤に関しての記録の保存
血液製剤は特定生物由来製品に該当するので、使用した場合は以下の記録を20年以上保存するようにしましょう。
名称(販売名)
製造番号
使用年月日
患者氏名・住所等
(参考)
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
第68条の22第3項、第4項、第8項
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
施行規則 第237条、第240条の2
最後に
東京都福祉保健局調べでは、輸血製剤の最も多いオーダー例は悪性新生物(36.4%)、続いて血液・造血器(19.7%)、循環器系(15.3%)で、妊娠・分娩が0.7%損傷などが2.8%でした。使用患者の年齢は87%が50歳以上だそうです。
抗がん剤の副作用の貧血に採用されることが多いようですが、一方で献血ボランティアの数がかなり少なくなっているという問題もあります。
今後も少子化により血液製剤の安定供給が課題になっていくことが予想されますね。
献血って意外とスッキリするよ!
私も2度ほど職場で献血ボランティアをしてみましたが、どういうわけか気分もさっぱりするので楽しかったです。
一度もやったことがないなら、やってみるといい思い出になりますよ。
献血後はしばらく待機したり、こまめに水分補給する必要もあるので、献血バスよりも献血ルームの方がおススメ。居心地がいいよ!