臨床検査技師のみなさん、こんにちは。
1級検査士を目指して頑張る音奈だよ★
んじゃ問題!DPT-IPVワクチンってなんの略称でしょうか?
ジフテリア(D)・百日咳(P)・破傷風(T)、そして不活化ポリオ(P)の4種を混合したワクチンDPT-IPV。2012年度11月より発売され、最近生まれた乳児は予防接種で打つことになっています。
そんなん習ってないわ。知らんかった!
乳児の定期接種にはクアトロバック®、テトラビック®、スクエアキッズ®が使われています。
4種の病原菌に対して免疫をブーストさせるので、ママ達は打ったあとは少し心配。
重い副反応がなくても、不機嫌・腫れが目立つ場合は受診してくださいっていわれます。
そんな4種類の病原菌のひとつーポリオウイルスですが、じつは日本での野生株の感染は近年確認されていません。ワクチンで十分に撲滅できているんですね!それなのにどうして未だに定期接種するのでしょうか。
そこで今回はこのポリオウイルスについて
ワクチンが必要な理由を説明し、ついでに臨床検査に携わる方に性状と検査方法などもお伝えします。
後半はポリオ単独不活化ワクチン「イモバックスポリオ」についてまとめています。現在それほどメジャーな製剤ではありませんが、興味のある方は最後までどうぞお読みください。
ポリオウイルスによる感染症と歴史
ポリオというのは病名で、急性灰白髄炎(この病態をポリオという)の原因ウイルスーポリオウイルスから名付けられました。
急性ウイルス感染症で、かつては世界中に流行。
「小児まひ」と呼ばれたポリオは1960年代前半までは流行を繰り返していました。
しかし、日本では予防接種の効果もあり1980年を最後に野生型ポリオウイルスによる麻痺患者は確認されていません(厚労省公開情報より)。
そして2000年には世界保健機構WHOが西大西洋地域のポリオ根絶を宣言するほどにワクチンが広く浸透しました。
2017年のポリオ流行国はパキスタンとアフガニスタンの2か国にまでなり、根絶まであと少しでしたが、近年ナイジェリアでも発症が確認されました。
そのためポリオに対する警戒は今もなお世界中で続けられています。
ポリオ撲滅に高い威力を発揮しているワクチン。
世界中では生ワクチンが採用されていますが、日本では安全性をより高めるため2012年に不活化ワクチンの皮下注が承認されました。
同時にそれまで破傷風と百日咳とジフテリアの3種混合で調製されていた不活化ワクチンも、不活化ポリオを加えた4種混合としてリニューアル。大きな副反応も少ないため、接種の回数が少なく済む4種混合がメジャーになりました。
ポリオウイルスの特筆すべき性状
はい!質問
流行しやすいってことは感染力が強いんですか?
このウイルスは外界でもしぶとく生息できます。一般の消毒薬に抵抗性を示すので予防が難しいですが、ホルマリンや紫外線により不活化することが知られています。
昔からある天日干しってやつやね!
それではどうやってヒトに感染するのかを見てみましょう。
感染経路
このウイルスは経口的に侵入します。
咽頭と小腸に感染し、主にリンパ組織で増殖します。のどのリンパ組織といえば扁桃がありますし、小腸といえばパイエル板がありますね。
こうしたリンパ組織を経てウイルス血症に進行し、全身に広がります。
また、増殖したウイルスは感染力を維持したまま便中に排泄されます。
もしも赤ちゃんが不顕性感染すると、オムツ替えでママやパパに移る可能性があるわけです。先述のようにウイルス自体が消毒液に抵抗性を示すので、手洗いしていてもうつりやすいんですよね。だから免疫がない状況ではすぐに流行するおそれがあります。
以上の病原性より、国内に感染者がみられなくてもワクチン接種をするようになっています。
臨床症状
発熱、不快感、のどの痛みが主。99%は風邪様症状もしくは不顕性感染で、感染にすら気づいていないといわれています。
一方でかなり稀にはなりますが、ウイルスが血液を介して脳・脊髄に広がると麻痺症状が発生します。しかもその場合の恐ろしい合併症は、低酸素血症、高炭酸ガス血症による呼吸不全です。
余談ですが子宮内感染が確認されているので、母体が感染していれば新生児麻痺につながることもあります。
妊娠期間中は抵抗力も下がるので、ウイルスが存在するだけで厄介なんですね。これが次に説明する経口ワクチンを廃止する理由のひとつにもなりました。
【経口ワクチンの問題】ワクチン関連麻痺患者(VAPP)(きわめて稀)
経口ポリオワクチン(生ワクチン)を接種した場合、ウイルスは弱毒化されているだけなので、児の腸管内でウイルス株が増殖し糞便中に排泄されます。
乳幼児期では約2か月、免疫不全であれば数年間も身体の外へ排出されるといわれています。
このウイルス株の中にもしも毒力復帰株が出現すると、児(3型)もしくは保護者(2型が多い)が感染し麻痺症状が出現することがあります。
しかも成人期に初感染を受けると、幼児期に比べて重篤な麻痺性疾患になりやすいというデータもあります。
そこで「厚生科学審議会 感染症分科会 感染症部会 ポリオ及び麻しんの予防接種に関する検討小委員会」は2003年、海外で既に使用されている不活化ワクチンの導入が日本にも必要であると提言し、
その結果2012年に不活化ポリオワクチンである「イムノバックスポリオ」と4種混合ワクチンが承認され、現在は4種混合ワクチンが定期接種として主に用いられるようになりました。
ポリオウイルスの検査方法
経口ワクチンが主だった2010年ごろまでは、臨床にポリオ陽性の検体が見受けられることもありました。
今後出現する可能性は低いですが陽性の場合は、野生株由来なのかワクチン関連株かを同定することも考えましょう。
予防接種ー クアトロバック、テトラビック、スクエアキッズ 、イモバックスポリオ
世界的には不活化ワクチンと経口弱毒生ワクチンがありますが、いまだに多くの国で生ワクチンが使用されています。
ちなみに生ワクチン(経口ポリオワクチン)は1~3型までのすべての弱毒株からなっており、IgAとIgG抗体の産生を促す効果が知られています。
現在主流のワクチンであるDPT-IPVワクチン(クアトロバック®、テトラビック®、スクエアキッズ®)に関しては次の記事にまとめていますので、そちらをご参照ください。
※作成中
ポリオ単独ワクチンとしては、2012年4月に日本ではじめて承認され、同年9月より定期接種として採用されている不活化ポリオワクチン「イモバックスポリオ」もありますので、そちらを紹介します。
現在生まれた子どもは、原則4種混合ワクチンを接種することになっていますので、こちらのワクチンを使用することは稀になっています。
現在こちらを使用するケース
⇒3種混合ワクチン(DPT)を完了させてポリオワクチンを検討している人
イモバックスポリオ
※添付文書から引用。参考文献に関してはまとめて最後に掲載しています。
薬効薬理と製法
本剤を幼児に初回及び追加免疫した時、鼻咽頭部で中和抗体及びIgAが獲得され、安定的で高い免疫原性を示し、その抗体持続時間は長期にわたることが報告されている3)~10)。
本剤は、3種類の血清型のポリオウイルス(1型:Mahoney株、2型:MEF-1株及び3型:Saukett株)を型別にVero細胞(サル腎細胞由来)で培養増殖させ、得られたウイルス浮遊液を濃縮、精製した後に不活化し、各型の不活化単価ワクチン原液をM-199ハンクス培地と混合し、希釈した3価の不活化ポリオワクチンである。希釈剤としてM-199ハンクス、保存剤としてフェノキシエタノールとホルムアルデヒドを含む。本剤は製造工程で、ウシの血液成分(血清)及びヒツジの毛由来成分(コレステロール)を含む培地及びブタ膵臓由来成分(トリプシン)を使用している。
イモバックスポリオ 添付文書
つまりVero細胞内で培養して増殖させたウイルスを濃縮し、不活化し、希釈して調整したワクチン。
本剤は、シード調整時、セルバンク調整時及び細胞培養工程の培地成分として、~中略~ウシ血液成分を使用している。~中略~。海外では本剤の接種により伝達性海綿状脳症(TSE)がヒトに伝播したという報告はない。以上から、本剤によるTSE伝播リスクは極めて小さいと考えられるが、そのリスクに関して被接種者又はその保護者へ説明するよう考慮すること。
細胞培地にポリペプチド系およびアミノグリコシド系の抗生剤を使用している。本剤では検出限界以下であるが、これらの抗生剤に対しアレルギーの既往のある者へは注意して接種すること。
同上
ワクチン副反応
国内臨床試験1)の成績のうち30%以上に確認された副反応は
- 紅斑 77.0%
- 腫脹 54.1%
- 発熱(37.5℃以上)33.8%
- 傾眠状態 35.1%
- 易刺激性 41.9%
臨床成績はかなり良く、接種により高い免疫維持が期待できるワクチンです。
【主要文献】
1)石原靖紀 他:小児科臨床,67(10),1685-1694, 2014
3) Vidor E., Plotkin SA. Poliovirus vaccine – inactivated. In Vaccines, 6th Edition.
Edited by Plotkin SA., Orenstein WA. and Offit PA. Saunders, 573-597, 2013
4) Ogra PL, Karzon D, Righthand F, et al. Immunoglobulin response in serum and
secretions after immunization with live and inactivated poliovaccine and natural
infection. N Engl J Med 279:893-900, 1968.
5) Zhaori G, Sun M, Faden HS, Ogra PL. Nasopharyngeal secretory antibody
response to poliovirus type 3 virion proteins exhibit different specificities after
immunization with live or inactivated poliovirus vaccines. J Infect Dis 159:1018-
1024, 1989.
6) Faden H, Duffy L. Effect of concurrent viral infection on systemic and local
antibody responses to live attenuated and enhanced-potency inactivated
poliovirus vaccines. Amer J Dis Child 146:1320-1323, 1992.
7) Faden H, Modlin J, Thoms ML, McBeath AM, Ferdon MB, Ogra PL. Comparative
evaluation of immunization with live attenuated and enhanced-potency inactivated
trivalent poliovirus vaccines in childhood: systemic and local immune responses. J
Infect Dis 162:1291-1297, 1990.
8)Onorato IM, Modlin JF, McBean AM, et al. Mucosal immunity induced by
enhanced-potency inactivated and oral polio vaccines. J Infect Dis 163:1-6, 1991.
9) Laassri M, Lottenbach K, Belshe R, et al. Effect of different vaccination schedules
on excretion of oral poliovirus vaccine strains. J Infect Dis 192:2092-2098, 2005.
10) Adenyi-Jones SCA, Faden H, Ferdon MB, et al. Systemic and local immune
responses to enhanced-potency inactivated poliovirus vaccine in premature and
term infants. J Pediatr 120:686-689, 1992.
【参考資料】
○予防接種と子どもの健康(2021年度版)
発行元 公益財団法人 予防接種リサーチセンター
○シンプル微生物学(改定4版より