臨床検査技師のみなさん、こんにちは。
1級検査士を目指して頑張る音奈だよ★
臨床でエコーをとっていると、乳房から血が出てくることもありますよね。
あわてて先輩技師に聞いてみたら
授乳中だからのう
当たり前だといわれても、初めて見たときは驚きますよね。
産後はホルモン変化にあわせてママの乳房から乳汁が分泌され、赤ちゃんの栄養源となります。その乳汁(母乳)は血液成分をもとに作られているんですよね。
だから、エコーの時にプローブで圧力をかけると出血することもあるというわけです。
そこで今回は、血液から作られる母乳にどのような成分が含まれているのか説明します。
母乳にはたくさんの栄養が含まれているので、赤ちゃんは摂取するのが推奨されています。いったい母乳にはどのような栄養素が含まれているのでしょうか。母乳だけですべてをまかなえるのでしょうか。
残念ながら母乳は完全な飲み物ではありません。スマートミールみたいなもので、万能ではありません。
スマートミールとは
健康づくりに役立つ栄養バランスのとれた食事のこと。つまり一食の中で、主食・主菜・副菜がそろい、野菜がたっぷり食塩の摂りすぎにも配慮した食事のこと。
「健康な食事・食環境」コンソーシアム
母乳には栄養素に偏りがあります。そのため赤ちゃんの成長が進むと、母乳だけでは身体の維持が難しいです。
たとえば鉄や抗体は母乳中にはそれほど含まれていません。ですから5、6カ月目には胎児期に母体から受け取った抗体や鉄などが枯渇することが知られています。
- 母乳ってどうやって出るのか
- 初乳と成乳のちがいとは
- どういった栄養素がどうして不足するのか
そういうことが気になる人は、本記事がおススメです!
母乳とホルモン
母乳の分泌にはいくつかのホルモンが関わりあい、バランスよく制御されています。
まず母乳はプロラクチンにより分泌されますが、妊娠期間中も血中プロラクチン濃度は上昇しています。しかし妊娠中は、胎盤から分泌されるエストロゲンやプロゲステロンの作用により抑制されているので出てこないです。
胎盤が排出されると、児の吸てつ刺激により産褥2~3日までには母乳が分泌されるようになります。そして母乳は生まれてから2週間ほどかけながら成分を変えていきます。
産後のホルモンバランスはいつ戻るの?
3~4か月ぐらいっていわれてんで。
プロラクチンは(吸てつ刺激により瞬間的に上昇する以外は)出産後から徐々に低下。エストロゲンやプロゲステロンは産後に急激に減少しますが、そのあと徐々に増加。
結果として3~4か月ぐらいで非妊娠期のホルモンバランスに戻るといわれています。
【一覧表】乳汁分泌に関与するホルモン
促進作用 | 主にプロラクチン・オキシトシン ほかにインスリン、サイロキシン、副腎皮質ホルモンが作用 |
抑制作用 | エストロゲン・プロゲステロン・ドパミン |
初乳と成乳
分娩後3日ごろまでに分泌される乳汁を初乳といいます。そして新生児が発育するように、母乳もゆっくりと成分が変わっていきます。
初乳を分泌しはじめて2週間程の移行乳を経て、成分が安定した状態の母乳を成乳と呼びます。
初乳はビタミンやミネラル、タンパク質が豊富で、その中には免疫物質も含まれます。
一方の成乳は、赤ちゃんを育てるために栄養分が高くなっており、特に脂肪や乳糖が豊富です。
初乳 | 成乳 | |
色調 | 黄色 濁り少なめ | 白濁 |
液性 | 粘稠性 | 漿液性 |
流出 | ジワジワ | ポタポタ |
栄養成分 | 免疫物質(IgA、リゾチーム、ラクトフェリン) ビタミンやミネラルとタンパク質が多め | 新生児の発育のために栄養分が高い 脂肪・乳糖が多く、高エネルギー |
あれ、児に移行する免疫グロブリンってIgGじゃなかったっけ?
そりゃあ胎盤透過性の話やで。
母乳はIgAやん
初乳中に含まれる免疫物質はIgAの他にリゾチームやラクトフェリンがあります。リゾチームは涙などにも含まれる殺菌作用のある酵素ですし、ラクトフェリンは腸管のバイエル板を刺激し免疫活性する物質です。
ラクトフェリンは子どもの免疫力向上にもおススメです。以下の商品はビフィズス菌も含めて腸内フローラを整えてくれます。風邪をひきやすい体質のお子さんは、腸活からはじめるといいですよ。
本の虫ー!
母乳中の成分で、児にとって悪く作用する可能性のあるものって何があるん?
理論上は遊離脂肪酸があげられるねぇ
遊離脂肪酸は母乳中に含まれ児の栄養になります。ただし、遊離脂肪酸は児の肝臓の働きを阻害する作用をもちます。これをビリルビン代謝阻害といいます。
その結果児は高ビリルビン血症になる可能性もあります。
【疾患】母乳性黄疸
母乳育児を受けている新生児・乳児にみられる黄疸で、臨床的に病的な意義が認められず(閉塞性黄疸等が除外できる)、およそ2~3か月で解消するものを母乳性黄疸といいます。
黄疸といえば、スクリーニング検査は何があるでしょうか?
新生児の黄疸で真っ先に思い浮かべるのは、毛細管で測定する「新生児ビリルビン」ではないでしょうか。大人も含めて黄疸かもしれない場合は、いくつかスクリーニング項目があります。
一般的に黄疸が疑われるケースでは
- スクリーニング
- 血中総ビリルビン、直接型ビリルビン、γGTP、総胆汁酸、ビタミンK依存性凝固因子活性 (HPT, TT, PT)、総コレステロール、CRP、検尿
- 確定診断
- ISE、血糖、血ガス、アンモニアなどが追加。
母乳中にそれほど含まれていない栄養素
鉄
鉄は母乳中には少ないので、児は胎児期に蓄えた貯蔵鉄で代用しています。生後6か月ごろには貯蔵していた鉄が無くなってしまうので、母乳だけでは鉄が不足するおそれがあります。
たとえば離乳食がうまく進まず、母乳しか受けつけない場合は注意が必要になります。それにより鉄欠防性貧血をきたした時は、乳児に食事療法や鉄剤投与が行われます。
ビタミンK
ビタミンKは、下記の理由により母乳を飲んでいる乳児で不足しやすいと知られています。そのためビタミンK欠乏性出血症の予防のために、ビタミンK2シロップを与薬することになっています。
内服時期は、出生後、生後1週間、生後1か月の3回が標準です。この3回は記録として母子手帳にも記されます。
【欠乏理由】
・肝臓におけるビタミンKの備蓄が少ない状態で、児は生まれるから(胎盤透過性不良)
・母乳に含まれるビタミンKには個人差があり不十分である可能性がある
・腸内細菌叢が未完成である
ビタミンD
ビタミンDも複数の理由が重なり、乳児期で不足することがあります。
不足すると、小腸や腎臓でのカルシウムおよびリンの吸収率が減少するのでくる病を発症するリスクが高まります。
経口摂取でビタミンDが補給されると、離乳食前でも母乳由来のビタミン摂取で発症をおさえられるケースもありますが、不足している場合もあります。
しかも新生児期にすでにビタミンDが不足している場合は、改善するのに長期化するおそれもあります。
ビタミンDは日光に当たることで合成されるので、1カ月検診が過ぎたころぐらいから10分でもいいので日なたを歩くことをおススメします。
エコーで出血するのはどうして?
母乳については以上になります。最後にエコー中に出血する要因について少しお話します。
乳房から血が出るのは、授乳中に乳管に傷がついて、それが乳腺に混じり外に出てくるというのが一般的な原因です。それ以外では乳管内に腫瘍ができて出血する場合もあります。
そのため乳管から血が出る患者にエコーのオーダーがあるということは、出血原因が悪性のしこりではないか確認してほしいということです。
出血があってもなくても、病変をみつけるのが検査技師のお仕事ですが、オーダーの意図を掴めていると自信をもって業務にあたれます。
出血に出会った際は授乳中だからと簡単に片づけるのではなく、何か異常が隠れていないか疑うようにしましょう。
こりゃあ一本とられたなぁ
【参考資料】
○「日本人の食事摂取基準2020年版」
○病気がみえるvol.10産科(第3版)
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