みなさんこんにちは、検査技師の音奈です。
出産して2か月が過ぎた頃からはじまる児の予防接種。医療現場で毎日働いていても、普段扱っていない分野の知識は数年ぶりですよね。特に微生物はマニアックです。
そこで今回は「ロタウイルス感染症とそのワクチン」という表題で、予防接種に関する現行情報をまとめてみました。ロタウイルス感染症は赤ちゃんにとって毒性の強い感染症ですので、定期予防接種のひとつとなっています。
この記事では医学的な基礎知識と「予防接種リサーチセンター」が発表している知見をあわせてご紹介します。リーフレットだけでは不安だという方は参考にしてみてください。
ロタウイルスとは
ロタウイルスによる感染症
ロタウイルスは、かつては小児コレラ、白痢とも呼ばれた冬季乳幼児嘔吐下痢症の病因ウイルスで、小児下痢の原因になっています(30~50%を占める)。
生後6か月から2年の乳児に主として発症し、5歳までに90%以上の幼児が感染。年齢にかかわらず何度でも感染発病しますが、乳児期での初感染が最も重症で、その後は感染ごとに軽症化していきます。
ロタウイルスの病原性
感染すると、水様便、白色便、黄白色便の下痢が1日5~10回程度で数日間持続します。だいたい3~7日で治癒しますが、発症後少なくとも1週間は糞便中にウイルスが排出され感染源となります。ですから兄弟姉妹のいる家庭では要注意です。
り患してしまったら…?
このウイルスの感染力は強いので、児が感染した場合は他の乳幼児に感染がうつらないように糞便および吐物の処理には十分に注意しましょう。
数%は脱水を伴う重症の下痢症になります。ですから家庭での治療方針は、脱水の改善と電解質バランスの補正になります。
検査技師・科学者として楽しむロタウイルスの性状
性状
レオウイルス科ロタウイルス属。A群、B群、C群が存在していますが、A群が頻度・病原性ともに圧倒的に高いのでロタウイルスといえばA群ロタウイルスをさします。二本鎖RNAゲノムでエンベロープ無し。
ロタウイルスが産生するタンパク質NSP4が腸管毒素(エンテロトキシン)として作用していることが報告されています。その結果Ca2+イオンが細胞質に放出され、細胞内のCa2+イオン濃度が上昇、腸管腔からのNa+イオンや水の吸収が阻害されます。
以上の結果、糞便の水分量がコントロールできず、ひどい下痢となります。
感染経路
主に糞口感染。およそ1/3においては上気道症状があるので、飛沫感染は否定できません。潜伏期はおよそ2日です。
感染により体内で活性化される免疫系
腸管粘膜の分泌型IgAと血中IgAが、初感染でのウイルス排除および再感染に対する防御に関与します。CTL(細胞傷害性Tcell)も防御機構の一役を担っていますが、免疫持続はおよそ1年で不完全(重篤度を和らげるのみ)ですので再感染は起こりえます。
検査方法
ウイルスのため、まずは免疫血清法。ラテックス凝集法、酵素抗体法が一般的です。電顕やRT-PCRも行われます。
ロタウイルスのワクチン
ワクチンの接種方法
弱毒化した生ウイルスワクチンを経口摂取します。ちょっとぐらい吐いても大丈夫です。
ワクチンの候補
1価ワクチン(ロタリックス)
5価ワクチン(ロタテック)
※保護者の判断で選べるようになっています。ただし、かかりつけ医によっては、どちらかしか扱っていないこともあるので、事前に電話で確認をとりましょう。
ワクチンの副反応など注意点
副反応
接種後1週間程度は腸重積症を意識しましょう。
接種後に周期的な不機嫌、腹痛、反復性の嘔吐や激しい泣き、血便のうちどれかひとつでも認められた場合は腸重積症の可能性を考え、速やかに医師の診察を受けてください。特に血便が認められない初期のケースが報告されています。不機嫌や嘔吐(ミルクの吐き戻しとは違う勢いのあるもの)だけでも疑いましょう。
※腸重積症は0歳児には頻発する疾患のひとつですので、予防接種との因果関係については今後も慎重に議論が必要です。
注意点
ロタウイルスのワクチンは、令和2年10月より定期接種となりました。乳幼児は腸重積症をよく発症しますので、好発時期を避けるために出生14週6日後までに初回接種を完了させることが望ましいとされています。
接種前に腸重積症の既往歴があることが明らかな場合、もしくは先天性消化管障害を有する場合および重症複合免疫不全の所見が認められる児には接種不可です。
また生ワクチンですので、念のため4週間は注意深く様子をみるようにしましょう。
参考資料
◎予防接種と子どもの健康(2021年度版)
発行元 公益財団法人 予防接種リサーチセンター
◎シンプル微生物学(改定4版より)